恩田陸さんの著書、月の裏側。
まずは大雑把にあらすじをまとめて、その後感想を述べていく。
あらすじ
主人公の多聞は大学時代の先生であった協一郎に原因不明の誘拐事件が起きていることを相談される。
それで実際に協一郎の住む街を訪ねたところ、不思議な事件が連続して発生する。
突然誘拐されるが、傷ひとつなく戻ってくる被害者たち。
耳や手など体の一部のレプリカを持って帰ってくる飼い猫。
人に迫り来る謎の液体。
街から人が少しずつ減っていき、ある日多聞や協一郎を含む4人だけが街に取り残された。
原因を探っていくうちに、誘拐された人間は人間でない何かに作り替えられて、元の生活に戻されることに気づく。
記憶もそのままに。
このことに気づいている人間はごく一部であるため、この失踪事件に誰も疑問を持たない。
体力・精神が疲弊しきった4人は謎の液体に吸収される道を選ぶ。
しかし多聞だけは吸収されることを妨げられ、全員の帰還を見届けることに。
帰還を見届けた多聞は何食わぬ顔で元の日常に戻る。
謎の液体の存在に気づきながら吸収されていった人間も元の生活に戻っていくが、自分が人間でない何かに作り替えられている事実に悩み・葛藤する。
あらすじはこんな感じだ。
人物の説明はかなり省いているから、ほとんどわからないかもしれないがかなり簡潔にまとめると、
誘拐された人間は傷も記憶も傷つけられることなく帰ってくるが、人間ではない何かに作り替えられている。
その事実に行き着いた主人公たちは作り替えられる恐怖に怯えながらも生活を続ける。
結局主人公以外は吸収されてしまうが、何事もなかったように生活は続く。
感想
この本を読み終わって、まず感じたことは自分と所属するコミュニティの関係だ。
人は考えることなく、何かしらのコミュニティに所属する。
そしてコミュニティに所属することへ疑問を持つことは少ないだろう。
あるコミュニティに所属している人はそのコミュニティがどのように見られているか、正確に把握できない。
「月の裏側」において、謎の液体とはコミュニティのことと考えられる。
ただの多数派と考えても構わないが、コミュニティに属さない者が感じる不安や心配を後半部分でしっかり描いている。
藍子や高安の様子からとても感じられるのではないだろうか。
コミュニティに属している者は何も感じないが、コミュニティに属さない者は何かされたわけでなくとも不安を感じることがある。
少数派は少数であるだけで不安を感じざるを得ない。
多数派に悪気がなくとも。
小さい頃から死ぬまでずっと続くこの感覚を描いたのが「月の裏側」だ。
誘拐された者は年齢を重ねるほど、戻ってくるのに時間がかかる。
これは新しいコミュニティに所属するためのハードルが誘拐から戻ってくる時間と比例していると、
私は考えている。
幼稚園の頃は知らない子ともすぐに仲良くなって遊んでいただろう。
ただ中学・高校と年を重ねるにつれて、知らない人と仲良くなるために一定数の段階を踏んでいる。
社会人になると、なおさらであろう。
コミュニティと自分、
この関係が恩田陸さんによってここまで壮大な物語になるとは。
これからも恩田陸さんの沼にハマっていってしまう。